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ターゲット・イヤー・ファンドをデフォルトに、米国の主流が日本に波及する兆し

2014-10-03

 確定拠出年金(DC)制度で、加入者が自ら選択しなかった場合に自動的に買い付けられるデフォルト商品は、米国401(k)では「ターゲット・イヤー・ファンド」が主流だが、日本にもこの傾向が広がる兆しがある。日本では、デフォルト商品は定期預金など元本確保型商品が中心になっているが、今年度、アライアンス・バーンスタインが運用するターゲット・イヤー・ファンドが初めてDC制度のデフォルト商品に採用された。アライアンス・バーンスタインDC推進室長の後藤順一郎氏は、「今後の日本の資産形成には、ターゲット・イヤー・ファンドが大きな役割を果たす」と、今後の拡大に期待を込めている。後藤氏にDCと「ターゲット・イヤー・ファンド」について聞いた。

DCと「ターゲット・イヤー・ファンド」の関係は?

 米国の企業型DC制度である401(k)では、「ターゲット・イヤー・ファンド」が運用の中心になっています。たとえば、制度加入時に投資先選択を行わなかった加入者が、自動的に投資するようにセットされたデフォルト商品において、制度全体の70%強が「ターゲット・イヤー・ファンド」を採用しています。20%程度が「ターゲット・リスク・ファンド(リスク水準別のバランス・ファンド)」、または、「マネージド・アカウント(加入者が証券会社や投資顧問会社に銘柄選択等の運用の裁量を与える取り決め)」、残る10%弱が元本確保型商品となっているようです。


アライアンス・バーンスタイン
DC推進室長
後藤順一郎氏

 このように米国のDCにおいてファンドが主力として活用されているのは、2006年に成立した「年金保護法」によって、デフォルト商品として「ターゲット・イヤー・ファンド」「ターゲット・リスク・ファンド」「マネージド・アカウント」にお墨付きが与えられたことが、きっかけになっています。06年以降は、中でも「ターゲット・イヤー・ファンド」の残高が伸びました。

 アライアンス・バーンスタインは米国において、2007年-08年にかけて「ターゲット・イヤー・ファンド」を導入する企業ごとに、ファンドの運用をカスタマイズするサービスを提供し始めました。現在では、カスタム版ターゲット・イヤー・ファンドのマーケット・シェア30%を占めるリーダーになっています。

 当サービスでは主に年齢別の資産配分比率をカスタマイズするのですが、その際の検討項目は、運用利回りの目標水準、リスク許容度、自社株の保有割合など、様々な要素があります。DCの他にDB(確定給付年金)がある場合、従業員持ち株会で自社株を多く保有している従業員が多い場合もあります。さらに企業のニーズによっては、将来の給付をより確かなものにするために保険商品を組み入れたプランや、他の運用会社の商品を取り入れたプランの提供も行っています。個別制度への柔軟な対応、また、カスタム版への豊富な経験などがアライアンス・バーンスタインの強みになっています。

ファンドによる運用に「保険」を組み合わせるとは、どういう仕組みですか?

 「ターゲット・イヤー・ファンド」は、若いころは株式への投資比率が高く、年齢が高くなるに従って徐々に債券への投資比率が高くなるように設計された運用プランですが、この債券に投資する比率の部分を、平準払い型の変額年金保険に置き換えていくようなイメージです。60歳以降にはDC資産の100%が変額年金保険になるようにします。このことによって加入者は、変額年金保険に置き換えられた資産残高に応じて一定の年間給付額を、保険会社の保証で、終身にわたって受けることができます。

 現在、アメリカでも「長生きのリスク」が意識されてきています。人間の寿命は管理できません。DB制度がない企業の加入者、退職後に備えた資金を何年間で取り崩せばよいのか分からない加入者には、終身で給付が受けられる仕組みは魅力的です。そして、弊社ではアメリカの変額年金保険で人気のあるGLWB(Guaranteed Lifetime Withdrawal Benefit)というDC資産を自分のものとして保有し続けながら、そこからの引出額を終身にわたって保険会社が保証する仕組みを活用することによって、DC制度ながらDBのような効果を加入者に提供することが可能になるのです。

 アライアンス・バーンスタインでは保険を組み入れたターゲット・イヤー・ファンドを「SRS(Secure Retirement Strategies)」として商品化し、401(k)を導入している企業に提供しています。

米国では、長期の資産形成を支援するツールとして一般的に活用されていますが、日本では「ターゲット・イヤー・ファンド」はほとんど活用されていません。日本で「ターゲット・イヤー・ファンド」はニーズがないのでしょうか?

 「ターゲット・イヤー・ファンド」は、想定退職年をターゲットにして、自動的に資産配分を変更して運用するファンドです。この設計思想を理解していただくためには、資産運用の意味、資産配分の意義、各資産の性格、そして年齢に応じた資産配分など、資産運用に関する一通りの知識が必要です。ですから、理解することが面倒なファンドと言われています。

 ただ、投資する方にとっては、ターゲット・イヤーをキチンと決めておけば、20代から、30代、40代、50代と世代が上がるたびに、それぞれの年齢に応じた資産配分の調整をファンドが自動的に行って、かつ、適正な資産配分への資産の預け替えまでファンドが勝手にやってくれるという、究極の「おまかせファンド」ですから、これほど資産形成のツールとして便利なものはないと思います。ただ、その便利な機能や仕組みについて、理解していただこうとすると、その説明は大変な労力が必要になります。したがって、ファンドの販売会社が積極的に取り上げにくいのが普及のネックになっています。

 また、これをDCに採用しようとすると、説明の難しさから、従業員への説明責任を果たしているかどうか確信が持てないので、結果的にファンドラインナップへの採用すら見送ってしまうということがあると思います。米国では法律によって、デフォルト商品としてふさわしいというお墨付きが与えられたので、各社がこぞって採用し、普及していったという経緯を忘れてはなりません。

 ただ、分かりやすく説明さえできれば、長期の資産形成にふさわしいファンドであるということは、資産運用に携わる関係者の共通認識としてあります。そこで、アライアンス・バーンスタインでは自ら直接、投資家の方々に対して、「ターゲット・イヤー・ファンド」の魅力を説明する活動を続けています。DC推進室の活動の一つは、DC導入企業やファンドの販売会社の方々への投資教育のサポート活動です。ファンドへの理解が進めば、必ず、日本でも「ターゲット・イヤー・ファンド」の普及が進むと確信を持っています。

説明が面倒なファンドについて、どのように分かりやすく説明しているのですか?

 ファンドの説明をする前に、加入者に対して資産運用の基本や年齢に応じた資産配分の考え方について理解してもらうことが重要です。その際、「難しいものをやさしく」するのではなく、「難しいものを面白く」伝える努力をしています。面白く楽しみながら、自然と資産運用についての知識が身に付くようなセミナーや勉強会を開催しています。たとえて言えば、「もしドラ(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら:ダイヤモンド社)」のような取り組みです。「もしドラ」は、ピーター・ドラッカーが著した経営管理の本を、イラスト付きの小説にして、面白く、かつ、わかりやすく内容を伝える本としてベストセラーになりました。

 この「もしドラ」の資産運用版といえるような小説「女子の幸福論」(ダイヤモンド社)や、「進藤やす子の今立ち止まって考えてみた恋愛 仕事 お金のこと!」(ダイヤモンド社発行の雑誌「Wanna!」の企画ページ)などのイラストや漫画などを活用し、面白いけど、聞いてみるとなんだか役に立つ話を、様々な角度から提供しています。このような活動は、各種メディア、大学での講義やゼミ、また、ウェブサイトやFacebookの活用など、様々なチャネルを通じて実施しています。

今後、日本でDCが発展していくために必要なことは?

 DCの発展という点では、DCファンドの残高の拡大による効果が、一番インパクトが大きいと思います。残高が増えれば、アメリカのように、より良いソリューションが提供できるようになるからです。現在、企業年金についての制度改革の議論が進んでいますが、制度としてのDCも、いかに運用商品に拠出金が投資されるようになるかという視点で改正がなされれば、普及に弾みがつくと思います。

 たとえば、拠出限度額の引き上げは効果があると思います。現在の議論の一つとして、拠出限度額のないDBと、厳しく限度額が制限されているDCを併せて、一つの企業に限度額を設けようという提案がでています。これは、DCによっては結果的に拠出限度額が引き上げられることになるので、良い効果があると思います。

 また、個人型DCの普及にも、もっと真剣な議論が必要だと思います。DC制度は転職時に持ち歩けるという大きなメリット(ポータビリティ)があるのですが、個人型DC市場が未発達のために、結果としてDCのポータビリティが損なわれています。勤めていた会社を退職して専業主婦や公務員になった場合、個人型DCに加入することができません。この制限を撤廃することなど、もっと柔軟な制度になってほしいと思います。

 そして、中途引出についても認められるようになればよいと思います。米国では10%のペナルティを支払えば、中途引出ができます。何らかの条件付きであっても、中途引出が可能になれば、DCについての関心を高める効果は大きいと思います。

「ダーゲット・イヤー・ファンド」のデフォルト商品への採用は、DC市場の発展のカギを握るほどのインパクトがあるのでしょう?

 現在、企業型DCでは、企業に義務付けられた投資教育(継続教育)の実施が課題になっています。職場ごとでの小規模セミナーの実施、eラーニングの活用など様々な試みがなされていますが、そのような取り組みを実施したとしても、投資することに興味のない方は、資産運用について真剣に学ぼうとはしません。学校教育の現場を見れば一目瞭然ですが、同じ授業を受けても全員が試験で100点を取れるわけではありません。

 では投資に興味のない方々が、元本確保型の低金利の運用で放置されて良いのだろうかということを考える必要があります。すでにDCの導入から10年以上が経過し、一定年限をDCで運用した方々が退職し始めています。たとえば10年間を低金利で運用した方と、数%で運用した方の受取額の違いは明らかです。

 デフォルト商品の議論は、投資に興味を持てない従業員にも一定の運用成果を提供するという姿勢が必要だと思います。その受け皿として、「ターゲット・イヤー・ファンド」は大きな役割を果たせると考えています。

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