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DCの投資教育、企業型は想定利回りの周知から=ニッセイ基礎研・徳島氏

2014-12-10

ニッセイ基礎研究所
年金総合リサーチセンター年金研究部長
徳島勝幸氏

 社会保障審議会企業年金部会で、確定拠出年金(DC)制度の普及・拡大のカギのひとつである「投資教育」について、厚生労働省が「基準」の策定に意欲を示している。「自らの運用によって、将来の年金給付額が変わる」というDC制度では、投資に関する知識やノウハウを加入者の一人ひとりが身に付ける必要がある。学校教育で「投資」について学ぶ機会がなかった多くの社会人に対して、DC制度の運営の一環として行われる「投資教育」は、いかにあるべきか。ニッセイ基礎研究所の年金総合リサーチセンター年金研究部長の徳島勝幸氏に、望ましい投資教育について聞いた。

国内でDC法が施行されて10年以上の歳月が経過しました。この間のDC市場の動向をどのように評価されていますか?

 企業型DCは順調に導入が進んでいると感じています。DCの積立資産が元本確保型で多くを占め、制度を導入した企業の想定利回り以上の運用ができていない加入者が多いなど、運営面では課題もありますが、企業の制度導入は順調に進んでいると思います。

 企業年金においてDCが制度の中心を占めるようになるのは国際的な流れです。既に英国では確定給付型企業年金(DB)の新規設定は閉鎖され、新規導入はDCにシフト。米国でもフォーチュン1000に数えられるようなトップ企業の6割以上がDBの新規加入を停止しDCをメインの企業年金に位置付けている状況です。日本も徐々に英米の状況に近づいていくと考えます。

 一方、個人型DCについては、普及が大きく遅れていると感じます。改めて個人型DCの位置づけをしっかりさせ、再度制度のあり方について検証の必要があると思います。今後の日本の社会保障制度を考えていくと、公的年金のみを頼りに老後の生活を支えていくことが一段と厳しくなっていく見通しにあり、企業年金の分野ではDBやDCの充実が、自営業者をはじめ非正規雇用者や第3号被保険者である専業主婦も含めて企業年金の恩恵がない方々には個人型DCによる積み立てが必要になると思います。

 現在、年金改正の議論の中で、第三号被保険者や公務員も加入できる個人型DCについて検討されていますが、議論は望ましい方向に進んでいると感じています。やはり、諸外国の例を見ても、国民の年金制度を考える上で、DCの充実は意味があるので、個人型DCが一段と拡充されるように進めていただきたいと思っています。

個人型DCの普及のネックになっている理由のひとつに、制度の複雑さがあるといわれます。現状では「誰が」、「いくらまで」積み立てられるのか、一言では表現できない仕組みになっています。これを今回の制度改定で解消するのは難しいのでは?

 制度の形を複雑にしているのは、拠出限度額の決定などに税制の発想がついてまわっているからです。公平な課税という原則を貫こうとするために、拠出限度額ひとつをとっても企業型で2種類、個人型でも自営業者と企業年金のない会社員とで異なり、かつ、自営業者は月額6.8万円から国民年金基金等の掛金を控除した額が上限になるなど、説明が難しい体系になっています。

 このような複雑さは、日本のDC制度が世界でも珍しい拠出時・運用時・受給時の3つの段階で実質的に非課税という「EEE(Exempt-Exempt-Exempt)」の制度になっているからです。たとえば、個人型DCに加入すると、DCの掛金は全額所得控除され、所得税や住民税が軽減されるなどの税制優遇が受けられます。これは、企業型のマッチング拠出額にも適用される考え方です。また、積立金の運用時には加入者の運用益は非課税ですし、積立金にかかる特別法人税も凍結されたままで非課税です。さらに、60歳以降に給付金を年金で受け取る場合は、標準的な年金額までは非課税になる公的年金等控除が適用されるので、ほとんど課税されないという状況になっています。

 海外では、拠出時には課税する「TEE(Taxed-Exempt-Exempt)」、または、給付時に課税する「EET」といわれる制度になっていて、どこかの段階で課税されるのが一般的です。

 企業年金で拠出限度額が相対的に小さい、または、マッチング拠出で企業の拠出額以上に拠出できないので不便だという声がありますが、これら制限があるのは、ひとつに税制の縛りがあるためです。拠出額の上積みにあたっては課税する「TEE」の制度を基本に制度設計をすれば、もっとシンプルに拠出限度額の引き上げの議論ができるようになります。欧州の一部やオーストラリアなどのDC制度では、拠出時には税メリット等を付けて利用を促しつつ、一定水準以上は課税するというスタンスで制度を運営しています。日本がめざす、ひとつの方向性を示していると考えています。

投資教育についての考え方は?

 投資教育について、よく誤解があると感じるのは、日本は欧米と比べて国民の金融リテラシーが遅れているという見方がありますが、これは必ずしも正しくないと思います。欧米でも自国の金融教育は「うまくいっていない」という認識が一般的です。このことを実感するのが、毎年オランダで開かれている「世界年金サミット」では、会議の初日をつぶして「金融リテラシー」について議論することが定着していることを挙げることができます。それほど、「投資教育」については各国でも悩みの種なのです。

企業年金部会での議論を見ていますと、厚生労働省では企業型DC制度で導入企業に義務付けている投資教育について基準を示す考えのようです。企業が行う投資教育について、基準になり得る進め方とは?

 企業型DCで徹底しておきたいのは、まず制度の意味についての十分な理解だと思います。DBからDCに移行した場合は、従来の確定給付型で提示されていた退職給付は、想定利回り何%だったのかはっきりしています。したがって、従来の退職給付金を確保するためには、DCでも想定利回りを上回る運用成果を得ることが必要なのです。何%以上の利回りで運用する必要があるという点について、加入者に対して明確に示しておくことが必要でしょう。

 多くの企業でDBは年2%~3%程度の利回りを想定したものとなっていますから、想定利回りについての理解が進むと、必然的に現在の元本確保型商品で得られるような0%台の利回りでは足りないということが分かります。年2%以上の利回りを確保するために、どのような投資商品の組み合わせが必要なのかということを考えることから、自ら進んで資産運用について学んでいこうという機運が生まれると思います。投資教育は、学ぼうとする人のための情報提供を超えることが困難なのです。

 もちろん、全ての加入者が自ら進んで資産運用について学ぼうとは考えないでしょうし、また、資産運用のノウハウが全員の身に付くものでもありません。資産運用について自分ではできないという方が、必ず一定水準で生まれます。この自分では運用できないという方には、制度面でのフォローを用意する必要があります。

 ひとつは、欧米の企業が導入しているような、「デフォルト商品」によって、お仕着せで投資に向かわせることです。たとえば、年代ごとの「ターゲット・デート・ファンド」や「ライフサイクル・ファンド」など、商品の中で自動的にリバランスや運用比率の変更を行ってリスク管理ができるタイプの商品があります。それらを、デフォルトとして積み立てることで、めざす想定利回りの獲得をめざすというやり方です。

 もうひとつは、オーストラリアで導入されている事例で、ファイナンシャル・プランナー(FP)など外部のアドバイザーがついて、運用プランについて具体的な助言を行うという方法です。オーストラリアでは、個人が当たり前に税理士に所得申告等を委託している文化があるため、資産運用でも同時にFPの助言を受けることも広く受け入れられ、普及しています。

 このように、投資教育、デフォルト商品、FPの助言など、自ら進んで投資について学びたいと考える人から、投資について学ぶことをしない人にまで、誰でもアクセスしやすいカタチで、メニューを揃えて提供することが大事になると思います。

今後、日本でDCが普及・発展するために必要な制度改定は?

 制度改定の前に、国内の資産運用環境の好転が重要だと思います。DCの成功例として米国の401kが良く話題に上りますが、米国の成功には米国株式市場の長期的な右肩上がりの上昇が大きな力になっています。401kに加入した人が、周りの人々の運用成果や成功体験に刺激を受けて、投資について自ら学ぶというようなことが、自然と繰り返されて401kの活用が広がった効果は大きかったと思います。

 また、制度改定とは異なりますが、現在のDCプランの商品ラインアップが平均で21本、多いところでは69本もあるという品揃えの多さにも問題があると思います。あまりにも選択肢が多いと、ラインアップを見ただけで、そこから何かを選ぶことをあきらめてしまいがちです。イギリスのNESTなどの商品提供数を見ると、10本に満たない数になっています。日本でも商品ラインナップを10本程度に絞り込んだ方が、普及にはプラスに働くのではないかと感じています。

 一方、制度改正については、拠出限度額の引き上げが大きいと思います。この際には、先ほども話しましたように、税制の枠組みとは切り離して、より自由に拠出できるようにした方が良いと思います。

 そして、受け取りについての考え方も、再度徹底する必要があると思います。現在のDC制度からの給付は、ほとんどが一時金で払い出されています。制度としては年金として受け取ってもらうことが目的なので、年金受け取りの際の課税の在り方を、もっと分かりやすいものとして、年金での受け取りを選択する人が増えるような仕組みが必要だと思います。

 今後の公的年金の状況等を考えると、企業型、および、個人型のDC制度を拡充していくことは、これからの日本が進んでいくひとつの道だと思います。それだけに、これまで以上に制度に関する理解が進み、国民の多くに使ってもらう制度として整備されていくことが重要です。ニッセイ基礎研では、毎月、「ニッセイ年金ストラテジー」を公式ホームページでも公開し、幅広く年金に関する動きを伝えています。シンクタンクとして制度の理解につながる情報発信を積極的に行い、制度の普及に貢献していきたいと思います。

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