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年金制度の普及促進には導入メリットに明確なメッセージを=ニッセイ基礎研の梅内氏

2015-01-22

ニッセイ基礎研究所
企業年金調査室長
梅内俊樹氏

 社会保障審議会企業年金部会は2015年1月16日、2014年を通じて議論してきた企業年金の制度改正についての議論に一定の整理を行った。今後、確定給付企業年金制度(DB)と確定拠出年金制度(DC)の拠出時・給付時の仕組みのあり方や、企業年金制度等に関する税制のあり方などについて継続して議論し、企業年金に関する新しい枠組みを構築する議論が一段と深まっていく方向だ。ニッセイ基礎研究所の企業年金調査室長の梅内俊樹氏に、これまでの議論の評価について聞いた。

社会保障審議会企業年金部会で、企業型DCを含む企業年金制度について制度改正の議論が続いています。1月16日に開催された企業年金部会で、これまでの議論の内容をまとめる「企業年金部会における議論の整理」も行われました。これまでの議論について、どのように評価されていますか?

 公的年金については、個人が老後に受け取れる年金額が中長期的に減額されていくことから、それを補完するために企業年金等の位置付けを、これまで以上に高めていこうという問題意識のもとに、議論が進められていると思います。

 企業年金の実施状況は減少傾向にあり、特に中小企業において実施率が非常に低くなっています。たとえば、従業員数が30人~99人の企業の企業年金の実施率は18.6%にすぎません。結果的に、個人の企業年金加入状況は、厚生年金被保険者全体の40%に満たない状況になっています。このため、企業年金の制度を見直し、より幅広い国民が公的年金以外の年金資金を確保できるようにしなければならないという議論になっています。

今回の“整理”などで明らかになってきた議論の方向性は、企業年金を導入している企業にとっては、どのような影響があると考えられますか?

 一般企業にとっては、「公的年金を補完する年金を確保する」ということに主眼が置かれて議論が進んでいるために、「企業年金の中途引出しは原則認めない」などの方向に進んでいます。これは、DB(確定給付企業年金)を導入している企業にとっては、これまでの柔軟で自由な制度設計について規制を強化する方向に動いていると感じられると思います。

 これまでの企業年金制度には、退職金の一部としての性格があります。確定給付型の企業年金では、退職時に年金積立金を退職一時金として支給してきた経緯があるのですが、現在の議論では、DBとDCのイコールフッティング(統一条件化)という方向性が示される中で、中途引出しを認めていないDCと同様に、DBでも中途引出しを制限する議論になっています。

 イコールフッティングは、これまで違う法律で規制されてきたDBとDCを、同じ土俵に乗せることで、より分かりやすい制度にしていくことが主眼なのですが、DBにあった柔軟な制度設計という長所が阻害される傾向が出てきています。あまり、このような傾向が強くなってしまうと、企業年金そのものを取りやめてしまうということにもつながりかねません。このイコールフッティングについては、ステップを踏んで徐々に統一化を図るなど、慎重な対応が必要だと思います。

 一方、中小企業には、制度設計への負担を軽減するため、定額拠出にして運用商品数も限定した「簡易型DC」が構想され、企業側に負担感の大きい投資教育については外部委託を通じた共同実施を認める方向です。また、個人型DCに企業が追加拠出できるようにするという仕組みも、企業が手軽に従業員福祉を行えるようにすることを意図しています。手続きを簡素にして、企業年金等の普及を促し、ひいては個人の老後所得保障を充実させようという流れになっています。

加入者にとっては、どのような変化が出てきそうですか?

 企業年金の普及を図ろうということと並行して、制度の有効活用を進めたいという点でも検討が進んでいます。企業型DCの導入は拡大していますが、その運用の中身は、全体の60%程度が元本確保型商品で運用され、運用内容を変更するスイッチングの経験がない人も多数存在するなど、十分に活用されているとは言えない状況です。

 このため、投資教育の充実策として、継続投資教育については従来の「配慮義務」から「努力義務」へと、より位置づけを重くしようということになっています。これは、従業員にとっては教育を受ける機会が増えるメリットになると思います。

 また、運用商品数について、現状では平均18本程度の商品数になっているのを、10本以内などに制限しようという議論があります。実際に、20本程度のラインアップがあると、例えば日本株に投資する商品ひとつとっても、似たような商品がいくつかあって、商品の違いが分からないということはあると思います。現在のDBの運用では、国内外の株式と債券という4資産に、オルタナティブ商品を組み合わせるというのが一般的です。これらにバランス運用などを組合わせたとしても、10本程度あれば最低限の品揃えは可能です。商品数を整理することによって商品選択の難易度を下げ、より分かりやすい制度にしていくことは可能であると考えます。

 また、運用商品を選択しない人に対する「デフォルト商品」の議論があり、これは分散投資効果が期待されるファンドを提供することを努力義務にするという方向になっています。専門家に運用を任せたいとのニーズもあり、その意味では加入者にとって一定のメリットがあります。ただ、リスクのある商品を提供すると、制度を運営する企業側は“訴訟リスク”を意識する必要性が生じます。少なくとも、なぜ、その商品がデフォルトに設定されたのかなど、加入者に対する丁寧かつ継続的な説明が必要になり、企業にとって負担が増すことにつながります。

 他方、個人型DCの加入対象を第3号被保険者や公務員にまで拡げるとの方向性は、自助努力の重要性が高まるなか、すべての国民が等しく老後の所得確保のための手段を持つという点で意義があると思います。加入範囲が拡充されれば、DCのポータビリティを充実させるという点でも、大きなメリットになります。これまでは、企業型DCがない企業への転職では、新たな資金の拠出ができないなどの不都合があったのですが、今後は、どのようなライフコースを選択したとしても個人型DCの口座で、引き続き積立投資が継続できるようになり、大いにプラスになると思います。

運営管理機関や商品提供会社にとっては?

 運営管理機関の選定条件を厳しくする、あるいは、制度に関する手数料をオープンにしてより低廉なものにするなど、短期的には競争が厳しくなる可能性があります。提供商品数が制限されれば、商品提供会社も今まで以上に良質な商品の提供が求められることになります。ただし、そのことによって、制度利用者の満足度が高まり、DC制度が普及し、利用が高まるということにつながれば、中長期的には関連業界全体にプラス効果が出てくると思います。

 制度の運営に係る関係機関の協力がなければ、制度の変更や一段の発展はありませんので、関係機関は長い目でみた協力姿勢が大切になると思います。

制度改正の議論は、企業年金の普及・拡大に資する内容になっていますか?

 一般の企業にとっては、新たに企業年金を導入するメリットが分かりにくいところがあります。投資教育に対する役割負担が重くなるのであれば、手続きが簡素化され、運用コストも低減するという以外に、制度導入のインセンティブが、もっと分かりやすいメッセージとして出てくることが必要です。さらに、DCについて「中途引出し」を認めるというのは、企業型DC普及のポイントですので、この点での整理が進むことを期待します。

 また、中小企業にとっては、「簡易型DC」や、個人型DCへの事業主掛金納付制度が創設され、DC制度の導入機運は高まると考えられます。ただ、投資教育に対する負担感は、依然として大きいと感じられるので、議論にある「共通の投資教育プラットフォームの創設」という部分で、いかに使いやすく、効果的な制度ができるかどうかがポイントになると思います。「共通の投資教育プラットフォーム」は、簡単な話ではありませんが、関係者が知恵を絞って、実効性のある仕組みを作っていくことが必要だと思います。

 公的年金を補完する利便性の高い企業年金制度が実現できたとしても、それだけでは利用者の拡大には限界があります。国民一人ひとりの老後所得保障を充実させるためには、いかに金融リテラシーを向上させ、自助努力を根付かせるかという点が重要です。この大前提とも言える部分について、社会全体の取り組みとして検討が進められることにも期待したいです。

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