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第33回年金部会、GPIFの運用の在り方について有識者からヒアリング

2016-01-13

第33回年金部会の様子

 社会保障審議会年金部会(第33回)が1月12日に開催され、運用の在り方について、関係機関・有識者からヒアリングが行われた。報告したのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーのトロント支社シニアパートナーのサーシャ・ガイ氏、日本支社パートナーの香月史秋氏。慶應義塾大学ビジネススクール准教授の小幡績氏、東京大学名誉教授の若杉敬明氏。そして、GPIFの理事CIOの水野弘道氏。現在は国内債券に限られているインハウス運用の範囲を広げる方針については異論は出なかった。ただ、インハウス運用の拡大については、運用体制の拡充などを踏まえ、「慎重に拡大を進めた方が良い」(若杉敬明氏)という意見が強かった。年金部会では、さらに、ヒアリングの機会を設けて議論を深めていく。

世界の大手年金基金ではインハウス運用が主流

 マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告によると、海外の大手年金基金は保有資産の大半をインハウスで運用することが一般化している。ノルウェイのNBIM(運用資産規模:7890億米ドル)が95%をインハウス運用している他、オランダのapg(同4400億米ドル)が80%、シンガポールのGIC(同3200億米ドル)が80%、米国のCalPERS(同2890億米ドル)が69%、カナダのCPP INVESTMENT BOARD(同2730億米ドル)が90%など、多くの年金基金でインハウス運用が運用の中心になっている。しかも、インハウス運用のシェアが高い年金基金は、運用を外部委託している年金基金と比較して好調な運用実績を残しているところが目立つ。

 そのような世界の年金基金と比較するとGPIFは、運用資産が1兆1350億ドルと最大の規模でありながら、インハウス運用比率は28%に過ぎない。GPIFでインハウス運用を行っている国内債券では、外部委託先の運用実績を上回る運用成績を残しており、インハウスでの運用割合を拡大してきている。また、GPIFに株式のインハウス運用を行う能力があるのかという点について、GPIFの水野氏は「少なくとも株式のパッシブ運用については、GPIFの資産規模を考えれば『完全型』といわれる指数フル連動の運用が可能。株式よりも銘柄数の多い債券のパッシブ運用で実績を重ねており、比較的速やかにパッシブ型の株式運用は実施可能」と語った。

 そして、インハウス運用を株式にも拡大するメリットについて「外部委託だけで運用を行っていると、市場からの情報取得が委託先からの情報に偏り、間接的で運用会社のバイアスがかかった情報しか得られない状況であり、これは運用リスクと感じている。インハウス運用で、実際に市場で売買注文を実施すると、その時々の注文に対する市場の反応をリアルに取得できる。インハウス運用は情報取得のメリット、また、外部委託をしている運用機関を管理・評価する上でも経験が活きる」と語った。

 慶応大学の小幡氏は「日本は運用について未成熟な社会であり、特にGPIFについては様々な政治的な介入が入りやすい傾向がある。運用について口出しが入るほどに、運用の自由が奪われるという懸念がぬぐい去れない。現状、外部委託で圧倒的に有利な低コストで委託できるのであれば、インハウス運用は極めて限定的にすることが現実的なのではないか。もっとも、運用に関する目利き能力の更なる向上策としてインハウス運用を実施するということは理解できる」という意見だった。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーのガイ氏は、「海外の年金基金は10年単位で計画性を持って徐々にインハウス運用の比率を拡大した」として、運用体制の見直し・強化に応じて徐々に拡大していくべきと語った。また、「北米の年金基金が、アジアに投資する場合には外部委託を活用し、また、特定のセクターやアセットクラスについては特別なスキルを持った外部の運用者に委託するなど、インハウスでカバーできない範囲については外部委託を活用している。GPIFの運用においても、インハウス運用に外部委託を組み合わせるハイブリッド型の運用を実施することが望ましい」と語っていた。

 また、巨額の資金を運用するGPIFが株主として企業を支配することにつながりかねないという懸念について、GPIFの水野氏は「議決権行使は、これまで同様に法令を遵守し、もっぱら被保険者の利益のために執行する。また、GPIFのガバナンスで、新たに合議制機関が制度化されると、政治的な圧力等による外部からの介入は適切にチェックされることになる。GPIFの資金力を使って特定企業を支配するような議決権行使はできない仕組みになる」と解説。あくまで、GPIFが表明している日本版スチュワードシップ・コード、あるいは、国連責任投資原則(環境・社会・ガバナンス<ESG>を考慮した投資)に則って、受託者責任の観点から議決権行使にあたると強調している。

オルタナティブ資産への直接投資で収益機会を多様化

 一方、オルタナティブ資産への直接投資については、GPIFの水野氏が「海外の年金基金から安定的に収益が見込まれる大型インフラ投資への共同投資(コインベスト)の誘いを受けるが、現在は直接投資が禁止されているため、世界から注目されている資産規模の強みを活かすことができていない」という報告があった。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告でも、年金基金のオルタナティブ資産への投資は、ノルウェイのNBIMが資産の3%をあてており100億ドル相当の不動産を10都市で保有している他、米国CalPERSが20億ドル相当の森林地を保有など資産の20%をオルタナティブ投資にあて、カナダのCPP INVESTMENT BOARDが英国の港湾の持ち分を24億ドル相当で保有するなど資産の40%をオルタナティブ投資にあてるなど、不動産やインフラ、PEなど様々な資産を直接保有している。

 インフラ投資やプライベートエクイティ投資などのオルタナティブ投資は、一般に「2・20(基本2%+成功報酬20%)」という高い運用コストもネックになるが、水野氏は「コスト控除後のリターンが重要」と、伝統4資産(国内外の株式・債券)では得られないリターンをオルタナティブ投資によって獲得する意義を訴えた。

 インハウス運用の拡大やオルタナティブ資産への直接投資など、GPIFの運用手段多様化について、「ガバナンスの議論と平行して運用の在り方を議論していくことは望ましい」ということで、年金部会の意見は一致している。運用については「できるだけ自由な運用」を可能としつつ、年金給付に支障がないような運用利回り目標を着実に確保する実績を残すことが求められている。

資産運用の専門性が充実したGPIFの運用体制

 なお、GPIFの運用体制は、2016年1月1日現在で91名の役職員のうち、運用専門職員が4名(スチュワードシップ担当1名、オルタナティブ投資担当2名、リスク管理担当1名)、金融機関等出身者が35名を占め、証券アナリスト36名、MBA14名など管理運用業務に携わる職員の専門性は着実に向上している。厚生労働省から出向を受け入れている5名の職員も、アクチュアリー(保険数理人)やアナリストといった金融専門性のある職員だという。

  また、水野氏は「インハウス運用の専門職の採用は、有期契約のプロフェッショナルとし、報酬は国内金融機関と比較してそん色のない水準で迎える。プロの採用にあたって苦労しているのは、報酬の部分ではなく、運用制限が多過ぎるという点。ガバナンスの強化によって運用の自由度も確保できる動きが続けば、採用の面でもプラスに働く」と運用体制の充実にも期待を込めた。

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